自分を整える

5年後、ドイツの古城で妻に「ありがとう」と言うために

bamadice


守りに入っていた自分

守りに入っていた。

気づけばいつも、失敗しない選択をしていた。 「50代だから」「今さら始めても」「若い人に任せればいい」

そんな言葉を、自分の中で何度も繰り返していた。

コロナの頃だろうか。 やる気が出ない。情熱が薄くなる。 悪い意味で慣れてきた。

人生の幸福感を、自己犠牲的な部分で補おうとした。 そう思うようにしようと、自分をある意味偽って過ごしていた。

家族のために、仕事のために。 走り続けるうちに、気がつけば自分を一番蔑ろにしていたのは、自分自身だった。


英語という悪友が、またチャンスを連れてきた

高校時代、最も苦手な英語で赤点を何度も経験した。 これほど理解できない学問もないと、その時は感じていた。

それでもアスレティックトレーナーになりたくて、アメリカの大学に飛び込んだ。 その選択を、周りからかなり驚かれたのを覚えている。

卒業して仕事を始めてから25年。 仕事の知識を得るために、外国人選手と会話するために、英語とは付かず離れずで生きてきた。 得意とは言えない。でも離れてもいなかった。

そんなある日、自分の専門性が高いという理由で、プロジェクトの英語通訳に抜擢された。

アメリカの大学を卒業しているというだけで、英語ができるという基準を自分は満たしているとは、通訳を生業としている人たちと比べると到底思えなかった。 正直、怖かった。

うまくできなかったらどうなるか。 評価が下がるかもしれない。 「50代でできないのは恥だ」という思いもあった。

それでも、ふと思った。

「これが、最後のチャンスかもしれない。」


腹を括った瞬間

飛び込んだ。

思った以上にやれた。 頭がどんどん回り始めた。 久しぶりに、自分の能力をフル回転させた感覚があった。

最近は、そこまでしなくてもいい仕事が続いていた。 気力も体力も、持て余したまま仕事していた。

仕事が終わって、トレーニングルームの自分のデスクで水を飲んだ。

全てのエネルギーを使い切った。 そんな感覚だった。

ふと、こんな言葉が浮かんだ。

「俺、まだできるじゃん。」

誰かに言われたわけじゃない。 自分が自分に向かって言っていた。

嫌なことから逃げるのではなく、 必要なことへ飛び込めば、 状況は自分で変えられる。

まだ自分には可能性がある。

そのとき、初めてそう確信した。


起きた変化

そのプロジェクトは、10日間ほど続いた。

こんな感じで毎日過ごしていたら、到底処理しきれない。 そう感じた瞬間、時間をどう使うかを頭をフル回転させて考えた。

まずは睡眠を確保して脳の働きを良くすること。 最も時間効率のいいタイミングで、仕事の予習と英語の勉強をすること。

この状況を乗り越えることに、最大集中した。

その結果として生まれたのが、朝5時からの時間の使い方だった。


コーヒーを淹れて、ボサノバをかけて、MacBookを開く。 誰にも邪魔されない、静かな時間。

頭の回転が変わった。 アイデアが浮かんだ。思考が整理された。

人生を変えたのは、大きな決断じゃなかった。 追い込まれた10日間が教えてくれた、小さな習慣だった。

体を整え、思考を整え、暮らしを整え、そして自分を整える。

守りから、前へ。

挑戦した自分を、初めて誇らしいと思えた。

そして、この挑戦はまだ続くことになる。


気づいたこと、そして胸に灯した覚悟

心の片隅に、ずっと残っていることがある。

新婚旅行でモルディブに行けなかった。 仕事とお金の事情で、実現できなかった。

妻はもう言う。 「別にいいよ」と。

でも今、妻がヨーロッパに行ってみたいと話したことがある。 ディズニーのお城みたいな古城を、実際に見てみたいと。

それを聞いたとき、自然と思った。

5年後、ドイツの古城で妻に「ありがとう」と言える自分でいたい。


仕事の関係でアメリカに行くことになったとき、 小さい娘たちを連れて一緒に暮らしたいと提案した。

英語ができない妻は、二つ返事で了承してくれた。

19年間、仕事ばかりで家族へのケアが薄くなっても、 文句も言わず、慎ましく支えてくれた。

その景色の前で、19年分の「ありがとう」を言いたい。


老いは止められない。 でも進み方は選べる。

50代は終わりじゃない。 覚悟を持って選べる年代だからこそ、再設計に意味がある。

自分を一番大切にすること。 それが、家族への最高の贈り物になると、今は信じている。

あのとき挑戦した自分に、今は静かに感謝している。

ABOUT ME
バマ
バマ
50代の再チャレンジャー
アスレティックトレーナー/トレーニングコーチ。 プロとアマチュア、両方の現場で25年以上、選手と向き合ってきた。 50代になって気づいた。自分を一番蔑ろにしていたのは、自分自身だった。 体を整え、思考を整え、暮らしを整え、そして自分を整える。 守りから、前へ。
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