思考を整える

老舗の時計屋のように|50代職人が守り続けた、本物が残るという信念

バマ

「〇〇さんがこう言っていたので」——その一言で仕事を語る若手が、うちの職場にも入ってきた。

「誰々が言っていたから」というスタイルへの違和感

上司の一声で、新しい後輩が入ってきた。
情報通で、世渡りも上手い。

「〇〇さんのメソッドはこうらしいですよ」
「あの人が言ってたんですけど」

そんな枕詞から入る指導が、目につくようになった。
間違ってはいない。
ただ、そこにどこまでの根拠があるのか、自分自身の考えはどこにあるのか、正直、見えてこない。

20年、自分の領域を一つずつ積み上げてきた身からすると、そのやり方はどこかずる賢く見える。
キャリア自体はある人だ。
でも、このカテゴリーに入ってきたのは、今回が初めてのはず。

それなのに、経験していないことまで言い切る。

遠慮がない。
土足で踏み込んでくる感覚に近い。

失敗しても、逃げ道がある構造

借りた技術は、失敗した時の逃げ道になる。

「その人の方法が合わなかった」
「そもそもあの人のやり方が違ったのかもしれない」

そう言えてしまう。
自分の技術として語っていないから、責任の所在がふわっとする。
うまくいけば自分の手柄、失敗すれば元の持ち主のせい。
都合のいい構造だ。

考えすぎだろうか、と自分でも思うことがある。
でも、同じ違和感を何度も覚えるということは、たぶん考えすぎではない。

レシピ通りには出さない、という職人のやり方

人のやり方を理解して、サポートに使うこと自体は自分にもある。
ただ、レシピをそのまま再現したことは、ほとんどない。

自分の解釈でアレンジする。
必要なものだけを取り入れて、要らないものは削る。
時には素材だけ借りて、まったく別の一皿に組み直すこともある。

そのままでは出さない。
それが自分の基本線だ。

手間はかかる。
時間もかかる。
結果が出るまでも遅い。
それでも、そこを崩したことはない。
後輩とは、たぶんここが違う。

老舗の時計屋のように、本物は残っていく

地位も、今はある種のアドバンテージとして本人が感じているのだろう。
数年後には、自分より立場が上になっているかもしれない。

正直、そのことに興味がない。

愛用しているブライトリングもそうだ。
創業は1884年、140年以上の歴史がある。
トレンドで売れてきたわけじゃない。
精度と作りへの信頼だけで、世代を超えて選ばれ続けてきた。

老舗の時計屋のように、流行や効率とは別のところで、本物は残っていく。
そう信じてここまでやってきた。
地位や立場を取りに行くゲームには、最初から乗っていないのだ。

効率よく作り変えれば、一時的にはよく売れるようになるかもしれない。
でも、時間をかけてしか積み上げられないものまで、一緒に失うことになる。
特色がなくなれば、それは誰にでもできることに変わる。

一度失った味は、簡単には建て直せない。

針が狂わなければ、それでいい。
派手な看板はいらない。

違和感の正体は、次元の違いだった

浅はかに見える、ずる賢く見える——そう感じてしまう自分にも、少し嫌気が差す。
人をそこまで判断する資格が、自分にあるのかとも思う。

でも今回、少し整理してわかったことがある。

苛立ちの正体は、優劣の話ではなく、そもそも同じ土俵で戦っていないという事実だった。

情報戦で優位を取ろうとしている後輩と、本物を積み上げようとしている自分。
見ている先も、目指しているゴールも違う。
比べる意味自体が、最初からなかったのかもしれない。

情報があふれるほど、誰にも真似できないものの価値は、逆に上がっていく気がする。
高くても、そこでしか得られない経験に、人は惹かれ始めている。

この先、その後輩とどう関わっていくかは、まだわからない。

それでも、今日も同じことをする。
自分の解釈でアレンジして、レシピ通りには出さない。
針が狂わなければ、それでいい。

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ABOUT ME
バマ
バマ
50代の再チャレンジャー
アスレティックトレーナー/トレーニングコーチ。 プロとアマチュア、両方の現場で四半世紀以上、選手と向き合ってきた。 50代になって気づいた。自分を一番蔑ろにしていたのは、自分自身だった。 体を整え、思考を整え、暮らしを整え、そして自分を整える。 守りから、前へ。
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